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呑んべえふくろうケイの

大陸横断鉄道でカナダを走る!(2)

(P2)


大陸鉄道の旅 二日目

今朝は6時過ぎに目が覚めました。外も明るくなっています。とても静かです。日本の寝台車のように5時過ぎから人々があわただしく歩き回るということがありません。

個室にじっとしていると、誰も通路を通らないので不思議な気がします。ブラインドを上げて外を見てみると、山の谷間を走っていますが、山には背の高い木が少なくまるで砂漠のような様相です。沿線ガイドを見てみると、このあたりは ASHCROFT という場所で、カナダで年間降雨量が最も少ない地域なのだそうです(何と年間で180ミリだけ!)。道理で、砂漠のような雰囲気です。


しばらく列車はゆっくりと進み、KAMLOOPS の駅で30分近く停車します。持ってきたラジオを取り出して地元の CIFM というのを聞いてみます。懐かしいマドンナの TRUE BLUE が聞こえてきました。人口6万7千人の街(高校時代通っていた街とおなじくらい)だけれど、FM放送は5局もあります。日本との違いをここにも感じます。これからしばらく山並みを旅することになります。でも、まだロッキーは4〜5時間 先のようです。楽しみだなぁ・・・・。

ラジオによると、KAMLOOPS の気温は10度。今日の最高予想気温は19度だそうで、バンクーバーとあまりかわりないね。
KAMLOOPS を発車してしばらく、ラジオもまったく入らなくなってしまいました。 このあたりは牧場もあり、馬や牛がのんびりと草を食べています。そのすぐ横では川 の流れをせき止めて自家用プールにしている家もあり、ちょっとうらやましい生活です。

結構いろんな家の庭に3メートルくらいのパラボラが設置されているのを見ました。きっとこのあたりだとケーブルテレビがないから、パラボラにみな頼っているのでしょう。でも、逆に、日本と違って1つのパラボラで相当数のチャンネルが入るはずだから、かえってケーブルのある都会よりよかったりして。だって、NHKだって見れるんだよ。


となりのおばあちゃんが起き出してきたのでご挨拶。ニューヨーク州の人で、7月上 旬に娘さんのいるアラスカに旅行し、それからバンクーバーと下りてきて、ロッキーを旅し、それからこの列車に乗り込み、これから自宅に帰るところだと言います。それにしても2カ月の一人旅。仕事のない老人ならではだろうけれど、今年のように 異常に暑い夏全体をアラスカとヴァンクーバで過ごすなんていいよねぇ。昨日バンクーバーで会った日本人夫妻もそうだけれど、やっぱり1カ月以上、ゆっくりと滞在するというのはカナダのような広大な国を味わうには必要。


列車は今度はトムソン川添いをずっと走っています。ときおり、川岸に切られた木々 が重なっているのを見かけます。もしかしたらビーバーの仕業かな。

僕のいる車両は列車の最後尾から4両目です。昨日も書いたように一番後ろが展望台 付きのラウンジ。夜はアルコールやスナックのサービスもあります。このシーズンだけは食堂車だけでさばききれないのか、ここでも朝食も出してくれます。
僕のいる車両は一人の個室が4室に2人の個室が6室、そして日本の寝台車のような コンパートメントが3つついています。それにシャワーとトイレが1つづつ。

2人用の個室をのぞいてみましたが、面白いのは、動かすことのできる普通のイスが 2つ置いてあり、横並びにしてもよいし、斜めに窓に向かう格好にしてもいいし、自由に置けるのです。ただ、隣り合わせの部屋は固定式の長椅子になっているようです。ということで、どうやら2人部屋は2種類あるようです。こちらのスペースも以前「出雲号」で乗った個室とほぼ同じくらいか、若干大きめ。コンパートメントは個室に比べれば、まったく普通の座席という感じですが、イスを ベッドにしたときはかえって個室よりも広いベッドとなります。そして、日中は向かい合わせにイスが並びますが、定員は4人ではなく2人のようです。そう考えると意外と余裕です。上のベッドは壁からおろしますが、下はイスを持ち上げてベッドにするので、ちょうど、日本の電車寝台とよく似ています。そして、一番後ろのドームカーに3人用の部屋があるようです。

我々の1両前がダイニングカーになっています。朝食が6時半から9時半。ブランチ が9時半から1時半。そしてディナーが5時と7時そして9時の3回。ディナーだけが要予約。あとはフリーです。しかも…全部ロハなのだ。全部料金に含まれています。アルコールとか一品で何かを頼んだときだけ料金を払います。凄い!また気軽に食事がしたいという場合には、別のスカイラインカフェというところに行けばライトミールにありつけるという風に、場所を選べるようになっています。(ただしこちらは有料)

アテンダントが声を上げて通ります。「朝食最後のコールです!」あわてて前の部屋の女性が声をかけます。「もうこの後は朝食が食べられないの?」アテンダントが笑って答えます。「いえいえ、コンチネンタルの朝食が最後だということで、この後、それ以外の朝食は大丈夫ですよ。」

さて、それでは、本でも読むかな……。


う。さ、寒い。噂には聞いていた鉄道車内。冷房がききすぎているためか、それとも ロッキー山脈を走るためか、異様に寒いのです。長袖のシャツを着ているけれど、足りません。薄手のセーターを持ってくるべきでした。アテンダントに尋ねると、暖房は出来ないので、エアコンを切って個室のドアを閉めてくださいとの答えが返ってきました。

時間は午前11時。すでにロッキー山中に入り込んできました。滝も見えました。湿 原も見ました。夜は凄い勢いで走っていたのに朝になると突然スピードがゆるくなり、そのままです。自然のただなかをひたすらのんびりと走っています。どうも眺めを楽しませてやろうというサービスもあるのではないかと思います。それが証拠に、有名な滝のすぐそばに来たら、さらにスピードを落として進んでくれました。

さっき、ダイニングカーに朝食を食べに行ってきました。もうブランチの時間になっており、7種類のメニューから選べるようになっていました。オムレツ、サンドイッチ、ラザーニャなどのメニューが並びます。パンケーキを頼むとふっくらしたパンケーキが3枚と果物が出てきます。仕上げはなんといってもカナダのメープルシロップ、これで決まり。 皿はちゃんと瀬戸物。テーブルにはちゃんとしたクロスがかかっています。

イスも木製のきちんとしたものです。内装も落ちついていてゆとりがあります。窓も広く、ながめはバツグン。ウェイターさん達も親切です。



最初は一人で食べていたけれど、そのうち日本人の母子が相席となりました。二人は 岐阜からパック旅行に参加しているということで、今日の午後、ジャスパーで降りてしまうそうです。ジャスパーのロッジで宿泊した後、飛行機でナイアガラへ、それから帰国と、9日間の旅だそうです。ご主人は9日も休みはとれないということで、留守番。

二人と話していて、急に、日本社会の現実が戻ってきたような実感。そうそう、そういう社会でした。こちらにまだ5ヶ月いるだけなのに、もう、すっかりこちらのテンポに染まってしまっている。帰国するのがこわい…。二人ともカナダの大自然にわくわくしているようでした。特に山好きなので、ロッキーが楽しみでしょうがないようです。

他にも7〜8人くらい同じパック旅行と思われる人々が次から次へと食堂車にやって きました。

ついでなので、疑問に思っていることを聞いてみました。「車内でチップをどうすればいいか説明を受けました?」「ええ、食堂車ではいらない。ベッドメーキングでは枕銭が必要と説明されました…」

およよよ…。実はちょっと前に恥をしのんでベッドメーキングなどしてくれるア テンダントに尋ねたら、彼は答えにくそうに「食堂車は北米的なやり方に基づいてチップを……特に個人的なことを頼んだらね。バーでは頼んだら必ずチップを……僕 については一番最後に降りられるときでいいですよ」とちょっとニュアンスの違うことを言っていたのです。まぁ、習うより慣れろ。回りの人々を見渡します。すると… チップを置いていく人もいれば置いて行かない人もいて様々だということがわかりま した。どうしようかねぇ…。これは降りるまで永遠の謎かもしれない。


ロッキー山脈に入ってしばらく、やっと雪が見えてきました。うれしくなって、とな りの(向かい側の)おばあちゃんに声をかけます。「雪が見えますよ!」すると、おばあちゃんもうれしそうにこちらの部屋にやってきました。

そこから会話が弾みます。78才のおばあちゃんで、名前はアン。13年前に旦那さ んに死に別れて今は一人だそうです。一人の気楽さであちらこちらに散らばっている子供達のところに旅行しているのだそうです。うらやましい。コーネル大学で生物学を専攻したという話を聞きました。考えてみれば女性で第二次世界大戦前に大学で生物をやっていたというのは相当のインテリ……。母親はコーネルの教授だったそうです。

話していると、いろいろなことを教えてくれます。なぜこのあたりの湖は緑色なのか とか、山の植生はどうなっているかとか。カメラも古いけれど一流のもの(生物学者には必須でしょう!)を持っているし、なかなか興味深い人です。面白い人と知り合いになれました。ともあれ隣人がいい人でよかった。


午後7時。すっかりロッキー山脈を抜けて、平地に下りてきました。これからは2日 間にわたって山の見えない生活です。

午後5時に少し早めの夕食を食べてきました。フルコースで、味はバツグンでした。 ダイニング・カーの入り口で他のお客さんのおばあちゃんに「ニイハオ!」と声をか けられます。「コンニチワ」と答えてあげると「ごめんなさい。中国語はそれしかわからないのよぉ」と逃げていきました。なんちゅう…。

スペースが限られる関係で、相席となりました。僕の前には若い白人夫婦が座ってい ます。とても静かな二人なので、僕も遠慮してだまって景色をみていました。でも、ずっと無言というのも変。この辺で話しかけてもいいのだけれど、どうも二人は静かなのです。絵はがきを書いたり、メモをとったりしています。二人の外見は凄い日焼けからスポーツ関係か、もしくは日雇い人夫さん。メインディッシュを頼むのに「野菜だけお願いします」と言っています。ベジタリア ン???? 飲み物は?と尋ねられて僕が「ワイン」と言っているのに二人は「水で結構」。なんだか、二人の前でステーキを食べるのが、申し訳なくなってきます。そういうこともあり、ますます静かに。

結局デザートになって、やっと僕が口火を切りました。「トロントまでですか?」月並みーーーーな質問。ところが、二人とも、なかなかいい笑顔で「いえ、ハリファックスまで」と答えてくれます。まぁ、大変な距離。ということで会話が急に弾みます。なんと二人ともテニスの先生。しかも旦那は招かれて何度も日本に行っているという …。もしかして元有名選手?そういえば顔を見たことのあるような…。し かしスポーツ音痴の僕。わかりません。

「最近 MATSUOKA や DATE が伸びているのを見るとうれしい」と言っていました。うーーん、その言い方…ビッグかもしれんなぁ。「お二人は日本のテニス界の発展に貢献していらっしゃるわけですね」と尋ねたら「まぁね…。」とうれしそうでした。うーーん、その反応も……ビッグかもしれんなぁ。


5時からの食事は2時間で総入れ替えになります。ところが6時過ぎにお年寄りのグ ループが入ってきました。ウェイターさんがあわてて、「今いらっしゃっても……もう6時過ぎですから」するとその一人が「だって5時からでしょう?」時差があって、時計を1時間進ませてなければいけないことを知らないようでした。僕も隣のおばあちゃんに聞いていたからいいようなものの、わからないもんね。

大陸横断鉄道はやっぱりスケールが違うよね。


展望車の時計。カナダ各地の時間が表示されています!
20:00 (MOUNTAIN TIME)
AUG.18, 1995



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